三人称の罠





三人称で小説を書くときに、つい陥りがちな過ちですが、たとえ“神の視点”と呼ばれているからといって、おなじ段落で視点を変えるのはNGです。

たとえば、山田、鈴木、田中の3人の登場人物がいる場合。

 山田は鈴木を殴りたいという衝動を抑えた。その自制心を田中は鬱陶しく思った。田中は山田のことを好きなのだろうか。ふたりを見ながら、鈴木はぼんやり考えていた。

無茶苦茶ではないものの、だれがなにを考えてどういった動きをしているのか、3人の性格などが微妙に伝わりづらい文になってしまいます。
一人称ほど完璧にでなくとも、ひとつの視点に絞って、その目から斜俯瞰気味に全体を捉えてみてください。

*山田の場合

 山田は鈴木を殴りたいという衝動を抑えた。なけなしの自制心を、田中が鬱陶しげに一瞥する。鈴木はぼんやりとふたりを見ている。田中が山田を好きなのではないかとでも考えているのだろう。

*田中の場合

 山田は鈴木を殴りたがっているようだったが、なんとか堪えた。その自制心を田中は鬱陶しく思った。鈴木はぼんやりとふたりを見ている。田中が山田を好きなのではないかとでも考えているのだろう。

*鈴木の場合

 山田は鈴木を殴りたがっているようだったが、なんとか堪えた。鈴木としては助かったが、その自制心を田中は鬱陶しく思っているようだった。田中は山田のことを好きなのだろうか。ふたりを見ながら、鈴木はぼんやり考えていた。

すこし斜めから見るだけで、かなり表情が変わって見えるのではないでしょうか。
三人称とはいえ、登場人物全員ぶんの感情や動作をすべて入れこんでしまうと、かえってくどくなり、本当に伝えたいことが見えづらくなってしまいます。
一人称との書き分けにも気を遣いながら、シンプルでストレートな文章をつくってください。

ただし、これは一人称にもいえることですが、段落が変われば視点も変えてOKなので、その段落ごとにべつべつの視点から書いていくのも、動きがあっていいと思います。








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