無駄を省く





物語や主人公の心理描写などをしっかりと書き込むことは大切ですが、読者の想像力を刺激することも同じぐらい重要です。
例文。

 リモコンの一時停止ボタンを押すと、ピースをした鈴木の顔が不自然に凍結した。
「また見てたの」
 黒のツーピースに真珠のネックレスといった喪服姿の母が、なんともいえない顔でリビングの入口に立っていた。
「今日はさとちゃんの命日よ」
「わかってるよ。もう行こう」
 一年ぶりに着た喪服の襟が気持ち悪い。ぼくは肩を竦めて立ち上がった。

 一時停止を押す。ピースをした鈴木の顔が、不自然に凍結した。
「また見てたの」
 黒のツーピースに真珠のネックレス。なんともいえない顔の母親が、リビングの入口に立っていた。
「今日はさとちゃんの……」
「わかってるよ。もう行こう」
 喪服の襟は一年で小さくなってしまっていた。首まわりが気持ち悪い。肩を竦めて、ぼくは立ち上がった。

次の行の母親の言葉で、ビデオを見ていることがわかるので、「リモコンの〜」を省略。
「喪服姿の母が」は、服とアクセサリーが葬式のためのものであることは最後の行で明らかになるので、ここでは省き、体言止めで強調。軽めな伏線にします。
「命日よ」も削ります。三点リーダを使って、なんともいえない顔の母親の複雑な胸中を表現。命日であることは、最後の行で匂わせておきます。
説明しすぎるのではなく、わざと曖昧に言葉を濁して、読者の想像に任せてみるのも、技術のうちです。
また、単語を埋め込むという手法もあります。

「本当にいいのか?」
 尋ねた。
「もちろんだ」
 返事が早すぎた。嘘。しかし、深追いはしない。

一人称でないと不自然になってしまうかもしれません。
助詞の省略、名詞を単語のまま配置するなどの工夫をして、うまく文書にメリハリをつけてください。








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